オーストリアで何度か葬儀に出席しました。
出席前は勝手がわからず、ネットで調べたり人に聞いたり…。それでも、実際に自分で見てみるまではよくわからないことも多いものです。
葬儀がどのような様子であったか、どなたかのご参考になることもあるかもしれませんので、書いておこうと思います。
なお、参列した葬儀はカトリック および 無宗教で、すべて墓地の一角にある礼拝堂で執り行われました。参列者は20~50人ほど。
また、社会的にとりわけ高い地位にあったような方々、要人が続々と参列するような方々の葬儀ではありませんでしたので、故人の方のご生前の社会的地位・役割などによっても、葬儀の様子は少し変わってくるかもしれません。
服装
オーストリアでお葬式に出席する際毎回気になるのが、何を着て行ったら失礼にならないのかという服装について。これについては、思いの外何でもありなのだなというのが、毎回抱く印象です。
日本のように、参列者の衣装が黒一色ということはなく、黒もいればグレーも青も緑も…。
故人の方のご家族の一人が黄色とエンジのカジュアルシャツで司会を務めていた式もありましたし(故人の方の好きな色だったなどの特別な意味合いはなく、いつも着られている普段着でした)、「買い物帰りに寄りました」のような普段着(=ジーンズ)で参加しているような人もちらほら見かけました。もちろん、悪意があるというような訳ではまったくありません。
ただ、やはりこれはちょっと例外で、故人とそのご遺族の方への弔意を表せるような落ち着いた地味な色、地味なデザインの服装を選ぶのが良いようです。上にも書きましたように絶対に黒でなければならない訳ではありませんが、黒は最も無難な選択かとは思います。
男性は暗い色目のスーツに白のYシャツ、そして黒いネクタイがなければ、こちらも暗い色目のネクタイを絞めれば問題ないでしょうね。実際、親族の葬儀に参列した際も、黒いネクタイを絞めていたのはうちの夫と親戚の子供たちのみで、他は皆さん、青系のネクタイを絞めていましたね。
たぶん、お葬式に使うものだけをわざわざ買うということをしないんでしょうね。
女性は黒のスーツが無難かとは思いますが、黒あるいは暗い色目のセーター、カットソーなどで出席されている方も普通にいましたね。アクセサリーも、日本のように真珠のみということはなく、真珠もあれば銀の意外と目立つようなネックレスを付けているような方などもいましたが、こちらもできるだけ控えめに、地味な色目のものを必要最小限に…という感じですね。
バッグについては、これこそ本当に何でもありでした。皆さん普段のお出かけに使っているハンドバッグをそのまま持ってきている印象でしたね。靴もしかり。履き古したいかついブーツにポップな水玉模様のタイツ(一応色は黒とグレー)というような女性もいました(お薦めという訳ではありませんが…)。
とにかく派手ではない、悪目立ちしない服装を心がければ(例えば、教会でもマナー違反とされるようなノースリーブやサンダルなどはさすがにNGですよね)失礼になることはないようなので、日本の葬儀ほど難しく考える必要はない感じです。
ちなみに私は、日本から持ってきていた、喪服以外には何にも使えないというようなスーツを着て行きましたが、私ほどかしこまった人はいませんでしたね。でも、別に悪い印象を与える訳ではないので、日本で一般的な喪服でも問題はないと思います。
お香典はなく、お花
日本のお香典のように、お金を持って行く習慣はありませんね。その代わり、お花を持ってくる方はちらほら見かけます。数で言うと参列者の1/4~1/5ぐらいの方が持ってきている印象でしょうか。
そのお花も、オーストリアのお花屋さんでよく見かけるきれいに束ねられた花束ではなく、1本(もしくは、せいぜい2・3本ほど)の花を、包装紙などで包むことなく、そのままむき出しで持って来られているのをよく見かけます。
このお花は葬儀の最後、地中に下ろした棺の上に置く(というか、地中なので投げ入れるような形になりますが)埋葬の際に使われます。地中に下ろした棺の前で、参列者が一人一人故人の方と最後のお別れ、また短い祈りを捧げますが、その時にそっと投げ入れるお花です。
花の色や種類も様々でしたが、葬儀マニュアルによると、色はやはり白やクリーム色、優しいピンク色、種類としてはヒメカイウ(独名: Calla)、ユリ(独名: Lilie)、カーネーション(独名: Nelke)、バラ(独名: Rose)、キク(独名: Chrysantheme)、忘れな草(独名: Vergissmeinnicht)などが適していると書いてありました。
ただ、あまりごつくなく、茎も細めで軽めの印象の花をそっと持っている感じの方が多かったので、それで言うとヒメカイウやユリはちょっとごついというか、目立つと言えば目立つかなと思います。お花は葬儀の間ずっと、自分の手で持っていることになります。
お花は持参しなくても、用意してくださっていることも多いです。埋葬の際、葬儀屋さんと思われる方が参列者に1本ずつ手渡してくれました。
この場合、葬儀の案内状に“お花は不要ですので、その分を○○慈善団体にご寄付いただければ幸いです”のように書き添えられていることもあります。
埋葬自体がないお葬式もありましたので(故人の方のご遺志で、ご遺体が献体に提供された場合でした)、その場合はお花は必要なくなりますが、埋葬がないというのはどちらかというと稀かもしれませんね…。
小さな子供さん
子供を葬儀に連れて行くかどうかについては、日本同様、オーストリアでも一つの議論テーマであるようです。
子供の心理面への影響云々の話はここでは脇に置いておきまして、実際的な話として3~4歳ぐらいまでの小さなお子さんを葬儀に参列させるのは、相当大変だと思います。
葬儀にもよりますが、長い場合には1時間近くにもなる葬儀の間、逃げ場のない礼拝堂の中で静かにさせておく必要がありますよね。
私が参列したお葬式はすべて、墓地の一角に建てられた葬儀用の礼拝堂で執り行われましたが、空調設備などはなく簡素な石かコンクリート造り。冬場は相当冷え込みます。
日本のお寺や葬儀場でしたら、一旦退席できる別室などもありそうですが、そういったスペースもまったくありませんでした。
イスなども、特に人数分用意されている訳ではなく、座りたい人だけ座るという感じでしたので、これで言うと小さいお子さんだけでなく、妊婦さんなどにとっても(特に冬場は)楽ではないですよね。
葬儀マニュアルには、4歳ぐらいまでのお子さんは、泣き声・叫び声などで葬儀に支障をきたす可能性があるので、預ける場所があるのであれば葬儀には出席させない方がよいだろうと書いてありました。
実際、私の義母の葬儀の際も、私は普通に娘(3歳)を連れて行くつもりでいたのですが、周りの人たちから「3歳の子は連れて行かない方がいいと思うよ。大変だよ。」と言われ、実の孫でありながら出席しませんでした。誰一人「出席させた方がいい」と勧めてくる人はいませんでしたね。
葬儀と埋葬合わせて1時間~1時間半ほど、その後親族や近しい方々と近くのレストランに移動し3時間ほど食事、という流れでしたが、ここに娘がいたら確かに本当に大変だったわ…と感じました。
私の場合は預ける場所がたまたまあったのでよかったですが、もちろん預ける場所がない人もいる訳で、そういう場合は連れて行くことになりますよね。親族など、故人の方との関係が近い場合は、「騒ぐかもしれず申し訳ないが、預け先もなくやむを得ず連れて来た」ということであれば、それに文句をつける人はいないでしょう。
面倒を看る方はちょっと大変ですが、大騒ぎする2歳の女の子を連れて頑張っていたお母さんもいらっしゃいました。
式の流れ
式の流れを簡単に書いておきます。
葬儀
葬儀開始時間までは、礼拝堂前でご遺族の方や他の参列者の方などと挨拶をしながら待ちます。
葬儀が始まったら、礼拝堂入り口で名前を記帳し中へ。
上にも書きましたように、敢えて参列者全員分のイスが用意されているという訳ではありませんし、故人の方とそれほど近しい関係でもないという場合は、適度に後ろの方にいるのが無難でしょう。
神父さんやご遺族の方のお話。バックミュージック。
よく話される神父さんもいれば、ご遺族から渡された故人の方のプロフィールをそのまま読み上げるだけの神父さんも。
所要時間は30分~45分ほどでしょうか。遺族の方や友人代表の方などがどれぐらい話されるかによって、ずいぶん変わってきます。
埋葬
葬儀が終わると、係の人が棺を担ぎ墓所までゆっくりと歩いて行きます。棺のすぐ後ろにはご家族や親族の方々、その後に友人・知人と続きます。
墓所に棺を下ろし、参列者一人一人、棺の上に花を置き(というか、若干投げ入れる格好になりますが)故人の方と最後のご挨拶、短い祈りを捧げます。
全員終わったところで式も終了です。
遺族の方と握手をしたり、抱き合ったり、言葉を交わしたりして挨拶し、その後は解散となります。
式の後は
式が終わると、故人の方とそれほど近しい関係でもなかった方、また、故人の遺族の方とはほとんど面識がないというような方などは帰宅されることが多いようです。
それ以外の方は、式後の食事やお茶に招かれているようでしたら、レストランなどに移動します。
おわりに
オーストリアでの葬儀は、マナーや作法が日本ほど厳格に定められているという訳ではありませんので、弔事に適した誠実な言動を心がければ、それほど礼を失するようなことにはならなくて済みそうです。
葬儀に参列するような機会はあまりないに越したことはないですが、もしもの時がありましたら、何かのご参考になれば幸いです。