オーストリアの学校教育制度について書いてみたいと思います。
今回は、オーストリアの学校教育制度の全体像を見極める!というのではなく、日本から仕事・ご赴任などの関係でお子さんを伴ってオーストリアに来られた方々を対象に、そのような方々に特に関係があると思われる部分に的を絞って書いていきたいと思います。
探し方・申込み方法等々はとりあえず置いておいて、とにかく制度についてですね。
日本の学校からオーストリアの現地校への編入を希望し、子供さんがドイツ語ができないという場合、小学3年生ぐらいまでだとほぼほぼ問題なく進んでいくかと思うのですが、3年生より上になってくると だんだん難易度が増し、ドイツ語の知識がほぼない状態でのギムナジウム(一般教育高等学校)への入学は相当厳しくなってくるかと思われます。
この厳しさは、10歳 という幼い年齢で小学校を卒業し、そこから先は 進学組 か 就職組 かで道が分かれてしまうというオーストリアの学校教育制度に因(よ)るところが大きいのですが、下にその制度の概要を(特に、日本からお子さんを伴ってオーストリアに来られる方の参考になるだろう部分に焦点を絞って)見ていきたいと思います。
オーストリアの学校教育制度 <抜粋>
オーストリアの学校教育制度の大枠を図にしてみましたので、まずはこちらをご覧ください。
学校教育制度の 文字通りすべてを網羅している訳ではなく、看護学校、特別支援学校など、一部記載していない学校もあります。
5つほど黄色い矢印が書いてありますが、これは私が独断で、というか、これまでの経験上、日本から来られた方がお子さんに望まれることの多かった進学コースを黄色矢印で表したものです。
小学校 → ギムナジウム(一般教育高等学校 低学年・高学年)→ 大学 という、日本の学校教育制度からも類推しやすいコースですね。
幼稚園 Kindergarten
まずは、幼稚園から始まりますね。
日本で新学期が始まるのは4月ですが、オーストリアではその他の欧州各国と同じく9月1日が新学期初日となります。
新学期初日の前日、8月31日にまでに 5歳 になっている子供(日本で言う年長さんですね)は、必ず幼稚園 あるいは 小学校付属の Vorschule(プレ小学校/“フォアシューレ”と読みます)に通わなければなりません。
日本では今のところ、幼稚園には制度上は行かせても行かせなくてもいい となっていると思いますので、ここがちょっと違うところですね。
公立幼稚園の保育料は基本 無料 です。
小学校 Volksschule
小学校へは、子供が 6歳 の9月1日に入学します。
日本とは4月か9月かの違いはありますが、入学年齢は同じですね。
9月1日生まれの子の場合どうするのか、やはり来年まで1年待たなければいけないのかって話になりますが、こういった場合、9月1日~翌3月1日生まれの子で、“小学校に通うための社会的能力が十分に備わっている”と判断された場合は、1年早く入学することも可能という制度があります。
ドイツ語ができないお子さんでも、オーストリアの現地校へ入学することは可能です。“ドイツ語ができない”を理由に入学を断られるということは、まずないかと思います。
もちろん言葉がまったくわからない世界に入っていく訳ですので、子供さんにかかるストレスは相当なものかと思いますが、だいたい半年も頑張っていれば なんとか馴染んでいくお子さんが多いようです。
移民・難民といった外国人も多いオーストリアですので、ドイツ語を母国語としない子供たちのためや、学習のサポートが必要な子供たちのための補習クラスなどが用意されている学校も多くありますので、学校選びの際にチェックしてみてください。
学校系のウェブサイトってなんだか結構しょぼくて、ほとんど何の参考にもならない…なんていうウェブサイトも数多くありますので、一番確実なのは学校に直接連絡を取り、校長先生始め先生方に面接の時間を取っていただくことですね。
学校を訪ねると、「あ、ここはダメだわ」と一発でわかることも多いですので、学校の環境(設備の状態、生徒の様子、学校周辺・通学路の環境 等々)をよくよくチェックしてみてください。
学年を1年下げての入学を提案されることも多いです。
日本だと クラスに1学年上の子がいるというのは まれ ですが、オーストリアでは意外とありますね。
留年も意外と普通にあって、15歳までに留年を経験している子供は全体の 10% ほど。
これがギムナジウム高学年(日本の高校にあたりますね)になると、留年等で学年をやり直す生徒が 40% にも上ります。
移民の多い区の公立小学校なんかだと、25人中オーストリア人はクラスに4人だけ とか、9割以上が外国人とか、そういったことも多々あります。
ウィーンの小学校では、移民または移民を背景に持つ子供の割合が半数以上(公立60%強・私立30%強)に上ります。
授業がすべて“ドイツ語がわからない子のため”のレベルになってしまい勉強にならない、といった話も聞いたことがありますが、ここまで深刻な状態の小学校は(たぶんですが)ごく限られているのではないかとも思います。
移民が多い地域は行ってみると「あ、なるほど」とすぐにわかりますので(町の雰囲気がガラリと変わります。お店の感じが変わり、街を行く人の人種・民族が変わり と、相当わかりやすく変化します)、ぜひ学校周辺の環境をチェックしてみてくださいね。
例えばうちの場合だと、移民の多い地区に入っていく ちょうど境界のような位置にあり、最寄りの公立小学校では、全生徒の94%がドイツ語を母国語としない生徒だそうです(小学校のウェブサイトに書いてありました)。
なので うちのご近所さんのオーストリア人、…というか、生活レベルがオーストリアの標準 or それ以上というご家庭は、ほとんど私立の幼稚園・小学校を選ばれている人が多い印象です。
公立小学校の生徒の定員がオーバーしている場合、日本の“学区制”のような感じで、近くに住んでいる子ほど優先的に入学させてもらえます。
公立の小学校の場合、学費は基本 無料 です。
小学校が終わる 10歳 が最大の分岐点
日本とオーストリアの大きな違い、ここ、オーストリアの学校教育制度を語る上で一番“キモ”となる部分かと思うのですが、10歳 つまり 日本でいう 小学校4年生 の終わりで、将来 自分が進むべき道の選択・決定を迫られてしまいます。
上の図を見ていただくとわかるかと思いますが、小学校の後に進むべき道が「一般教育高等学校 低学年」か「新制中等学校」の二択になってますよね。
“一般教育高等学校”というと 何のことやらさっぱり…という方多くいらっしゃると思いますが、いわゆる「ギムナジウム」です。
ギムナジウムなら聞いたことないですか?将来的に大学に進むための学校ですよね。誤解を恐れず もっと平たく言うと、いわゆる「エリートコース」です。
新制中等学校<Neue Mittelschule>というのは、2012年から法的に導入された制度で(2012年~2019年にかけて 段階的に進められていました)、これまで 基幹学校<Hauptschule>と呼ばれていたものが、名前も新たに新生したという学校です。
基幹学校は元々、中学や高校を卒業した後、進学せずに手に職を就けて就職する生徒たちのための学校でした。
それが、10歳という幼さで将来の方向性(就職か進学か)を決めるという無茶ぶりへの批判、
10歳以降の明らかな教育格差への批判、
また、高等教育への進学を望む子供が年々増える中で、基幹学校は単に“勉強ができない子、移民の子の学校”というような社会的レッテルを貼られ、その後の就職にも不利になるといった様々な批判を受け、
就職組・進学組の垣根を低くしようという大義を掲げて(?)誕生したのが新制中等学校です。
“垣根”を低くするための取り組みもいろいろと試されているようなのですが、やはり名前が変わったぐらいで中身までガラっと変わるということはなく、その“垣根”は未だそれほど低くはなっていないようです。
以前と同じように、新制中等学校からギムナジウムへの編入は容易ではなく(まったく不可能という訳ではありませんが。子供さんがどれだけ頑張れるかですね)、また、新制中等学校の生徒たちの成績が、基幹学校の頃よりグンと落ちているなんていう統計結果もあったりします(まぁ今は“移行期間”ですので、今後は変わってくるかもしれませんが…)。
当記事を参考に読まれている方ですと、上の図に書いた黄色矢印コース(小学校 → ギムナジウム → 大学)へのコースを望まれている方が多いと思うのですが、この 10歳の第一関門 に注意してみてください。
ギムナジウムへの進学には、小学校4年生の成績、特にドイツ語と数学が「1」か「2」である必要があります。オーストリアでは日本と逆で、「1」が最高評価になります。
日本の学校から編入してきたお子さんだと、数学が問題になることはまずない、というか、数学に関しては「天才」ぐらいの評価を受けることもあるかもしれませんが 笑、とにかくドイツ語がネックになるんですよね…。
小学校・ギムナジウムの先生方とも相談する必要がありますが、先生方が熱心な場合、あるいはお子さんが優秀な場合は、「ドイツ語はなんとか“成績 3”でも折り合いをつけて…。ドイツ語は入学試験でチェックしてみて…。」など、様々な代替案でなんとか救済しようとしてくれる学校もありますので、まずは 子供さんに短期間の内にできるだけドイツ語を勉強させてあげて、その上で学校と相談してみてください。
ギムナジウム Gymnasium <AHS>
ギムナジウムと言った方がわかりやすいかと思いますが、教育制度上は AHS <Allgemein bildende höhere Schule> – 一般高等教育学校 – といいます。
10歳~14歳が低学年(Unterstufe – 下級段階)、14歳~18歳が高学年(Oberstufe – 上級段階)です。
日本からギムナジウムへの編入は、ドイツ語ができない場合 相当難しくなってくると思います。
日本でも想像するとわかりますが、ある程度の難関大学を目指す中学や高校に、日本語がほとんどわからない生徒が入学するって、ほとんど無理じゃないか…というぐらい難しい話ですもんね…。
ただ、10歳とか12歳とか、少しぐらいドイツ語にハンデがあっても、十分巻き返せる年齢かと思うんですが、ここが とにかく10歳で道が分けられてしまうという制度の問題点ですよね…。
ですので、オーストリアへのご赴任等が決まった場合は、できるだけ早く子供さんにドイツ語の短期集中学習をさせてあげてください。
ギムナジウムへの入学がどうしても難しいという場合は、上にも何度か書きました新制中等学校に入学させ、そこからなんとかギムナジウムへ編入できるよう子供さんに頑張ってもらう、あるいは、ドイツ語の習得は諦め、少なくとも英語はペラペラになるであろうインターナショナルスクールに入学させる、という選択をする親御さんも多いようです。
ギムナジウムは大きく分けると、下記の3種類に分類されます。
- ギムナジウム <Gymnasium>: 文学部・人文科学・精神科学 系(日本風にざっくり言うと“文系”)
- レアルギムナジウム <Realgymnasium>: 自然科学・数学 系(日本風にざっくり言うと“理系”)
- 経済学ギムナジウム <Wirtschaftskundliches Realgymnasium>:経済学・生物学 系
ギムナジウム高学年<上級段階>の最後に Matura と呼ばれる大学入学資格試験を受け、合格すると大学入学資格を得ることができます。
公立の場合、学費は基本 無料 です。
職業教育高等学校 BHS
14歳~19歳まで、義務教育後から始まる学校ですね。
ちょうど上のギムナジウム高学年(=上級段階)の年齢に相当しますが、修業期間は 5年 と、ギムナジウムより1年長いです。
こちらは、将来的に進学することも可能、卒業後に職業能力資格を得て就職することも可能ということで、それはそれは種々様々な分野の学校に分かれています。
技術・技能を必要とする(校内は男ばかりという 笑)工学や機械・電気系を始め、化学、農業、建設、経済、商業、デザイン、家政科、福祉、保母 等々。
ギムナジウム低学年(=下級段階)、新制中等学校、技術専門学校<Polytechnische Schule>から入学することができ、ギムナジウムよりも実践に即した授業を受けられるという点、また卒業の時点で(試験に合格すればですが)、大学入学資格と同時に応用職業能力資格も得られるという点で人気があります。
ただ、入学したギムナジウム低学年出身者が次年度まで進める確率は 9割 程度なのに比べ、新制中等学校出身者だと 7割 弱まで下がり、やはり勉強についていくためには相当の努力が必要なようです。
職業教育高等学校を退学となった場合は、図にもあります 職業教育中等学校<BMS> に進むという道があります。
職業教育高等学校<BHS>の学校としては、
- Höhere Technische Lehranstalten (HTL) – 高等技術学校
- Handelsakademien (HAK) – 商業学校
等が特に人気のようで、生徒数が増加傾向にあります。
公立の場合、学費は基本 無料 です。
おわりに
とりあえず、お子さんの編入のためにオーストリアの学校教育制度について知りたいという方が、すぐに参考にできそうな情報をピックアップして書いてみました。
また別の機会に、大学レベルの高等教育機関について、あるいは小学校~高校までの学校の探し方・申込み方法などについて書いてみたいと思います。
ちなみに、お子さんが将来的にオーストリアに留まる予定じゃない場合は、特に現地校にこだわる必要はないかもしれませんね。
“数年後には日本に帰国する予定だけど敢えて現地校を”という場合、年齢・滞在期間にもよりますが、日本語が苦手になってしまうケースも意外とあります。
そういった場合は帰国後の学校として いわゆる“帰国子女枠”を選ばれるという方も多いようです。
またウィーン市内には、ウィーン日本人国際学校、あるいはインターナショナルスクールも数校ですがあります(インターナショナルスクールは、ウィーン市内だけではなく他州にもありますが、下のリストはウィーン市内の学校のみです)。
ウィーン日本人国際学校
ウィーン インターナショナル スクール
アメリカン インターナショナル スクール
ダニューブ インターナショナル スクール
ウィーン クリスチャン スクール (International Christian School of Vienna)
ウィーン日本人国際学校(小学校・中学校まであります)は生徒数はひじょうに少ないものの、日本からは何の障害もなく編入ができますよね。
サッカーの本田選手とか 指揮者の佐渡裕さんとか 佳子様とか、日本ではなかなかお目にかかれない著名な方に会えるかもしれない、という特典もありますし。笑
ただ、せっかく海外で生活できる貴重な時間を、語学力の向上に役立てられないというところが若干残念なところかもしれません。
インターナショナルスクールは、とにかく何といっても学費が高い…。日本の私立大学のより高額な部類に分けられる学費より さらに高いという感じ。会社などから何らかの援助が得られない場合、選ぶのもなかなか勇気がいります。
“やはり最終的には現地校が良さそう。なんとか現地校で頑張ってくれぃ!”という場合は、とにかく何を置いても頑張って、できるだけ早急に子供さんにドイツ語を習得させてあげる…というのが、希望する現地校で学んでいける何よりの近道かと思います。
最後に載せるのも何なんですが(上に入れるところがなかった…)、オーストリアの学校教育制度について説明されているサイトのリンクを貼っておきますね(オーストリア版“文部科学省”のサイトです)。
サイト内に<Bildungswege in Österreich 2022/23(オーストリアの教育ルート)>と書かれたPDFファイルへのリンクが貼られています。ドイツ語はもちろん、英語やその他多数の言語で用意されています。
子供さんの学校選びは本当に頭を悩ませる問題ですが、当記事が何かの参考になれば嬉しいです。