オーストリアでは暖かい季節が近づいてくると、
「ツェッケン(Zecken)に注意しないと。」
「ツェッケン(Zecken)の予防接種した?」
などと、何かと ツェッケ(複数形: ツェッケン)が話題に上ります。
ツェッケ(Zecke)とは マダニ のこと。
暖かくなりマダニが活動を開始、
草むらなどに潜み、戸外で活動する人に咬みつきます。
そして、マダニに咬みつかれることによって発症する可能性のあるのが、「ダニ媒介性脳炎」と呼ばれるウイルス感染症です。
初夏に多く見られる感染症ということで、ドイツ語では「Frühsommer- Menigoenzephalitis(初夏脳炎・初夏髄膜脳炎)」と呼ばれ、一般的には「FMSE」と略して使われます。
すべてのマダニがウイルスを持っている訳でも、咬まれたら必ず感染する訳でもなく、
また、コロナと同じで、感染したからと言って必ず発症する訳でもないのですが、運悪く発症した場合、命にかかわる重篤な症状や神経障害を引き起こす可能性があるということで、
オーストリアでは誰もが知る、いわゆる<風土病>となっています。
2001年には、オーストリアをご旅行中の日本人旅行者の方が、マダニに咬まれ感染し、脳炎を発症して亡くなられる…という悲しい出来事もありました。
短期滞在・長期滞在問わず、マダニに咬まれるのを防ぐ自分でもできる対策、オーストリアで推奨されているワクチン接種による予防方法、また、もしマダニに咬まれてしまった場合の対処法等について、下に詳しくみていきたいと思います。
マダニ(ツェッケ / Zecke)って何?
マダニは、いわゆる“ダニ”とは違います。
日本でよく話題に出てくる あの“ダニ”。
布団やカーペットの中に潜み アレルギーの原因になったりするダニは、大きさ0.3~1mmほどで目に見えないほど小さく、主に人のフケやアカをエサにしていますが、
マダニのエサは動物の血です😰
大きさは、<幼虫>だと0.5mmほど、その後<若虫>段階を経て、最終的な<成虫>だと2.5~3mmにまで成長し、目でも確認できます。
マダニは、幼虫・若虫・成虫、どの段階でも吸血します。
蚊のように、針のような形状の口を直接血管に差し入れるのではなく、ペンチのような器官を使って皮膚を切り裂き、口器と呼ばれる“口”を皮膚に差し込んで吸血します。
(か、書いてるだけで気分が…😱)
唾液に麻酔様の物質が含まれているため咬まれても痛みはなく、そのため人はマダニに咬まれたことに気づきません。
マダニは一度皮膚に食いつき 吸血を始めると、その場で1週間前後も血を吸い続け、その間に体は1cm~ ほどにまで膨れ上がります。
吸血期間はそれぞれ、幼ダニで1日~数日、若ダニで数日~1週間程度、成ダニになると1~2週間程度となり、吸血し終わると自然に脱落します。
マダニに遭遇する時期は?
マダニの主な活動期間は春から晩秋にかけて。
オーストリアでは特に、3月~10月にかけて マダニに気をつけるように言われています。
マダニに遭遇する場所は?
マダニが潜んでいるのは、草むらの中。
オーストリアで、<マダニは木の上から落ちてくる>なんていう話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが(私もそう聞いたことがあります…)、これはいわゆる“デマ”だそうで、一般的には150cmより低い草木の茂みに潜んでいるそうです。
私がウィーンに住み始めた頃、「ウィーンの森に行く場合は、マダニに気をつけて!」なんていう話をよく聞き、「私はウィーンの森までは行かないし、心配しなくていいな。」などと思っていたのですが、実はウィーンの森にまで行かなくても、市の中心に近い公園であったとしても、普通にマダニは潜んでいます。
去年、うちのお隣りさんの女の子(5歳)が、市の中心に近い公園で遊んでいてマダニに咬まれた…なんていう話も聞きました。
なので、山や森、河川敷など、いかにも緑の多い、自然豊かな場所へ行く時はもちろんのこと、市内にあるご近所の公園の芝生であっても、自宅の庭であっても、気は抜けません。
ダニ媒介性脳炎は毎年、各連邦州で発症が確認されてはいるものの、オーストリア全域・ウィーン市全域が発症エリア、という訳ではなく、発症がほとんど見られない地域・区域というのも、実はあります。
ただ、発症の分布地域は絶えず変化しており、ウイルスの広がりを助長、あるいは制限する明確な要因なども解明されておらず、やはりオーストリア全域に発症のリスクがあるとして対策を取った方がいいと言われています。
どこをどうやって咬まれるの?
普段は草むらに潜みつつ、吸血対象がやって来るのを待っているマダニ。
目を持たないマダニは、前足(一番前についた1対の足です)で人の体温や体臭、呼気(二酸化炭素)を感じ取り、また、人が動くことで生じる振動などもキャッチしながら、近づいてきた人に(服の上にも)飛びつきます。
その後、吸血のしやすい皮膚の薄く柔らかい箇所を探りつつ移動し、ここぞ!という箇所を見つけ皮膚に咬みつきます。
特に咬まれやすい箇所は、膝の裏、足の付け根、お腹、胸の下付近、ひじの内側、手首、頭部、髪の毛の中…などと言われますが、まぁ全身に近いですね…。
オーストリア以外の国では?
上図が、ダニ媒介性脳炎の発生地域です(中欧以東は色付けが省略されているようですが、発生していない訳ではありません)。
Österreich と書かれているのがオーストリアですが、赤で表示され、発生率が高いのがわかります。
オーストリア以外では、バルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)、フィンランド、スイス、ドイツ(主に南部)、ロシア、ポーランド(主に北東部と南部)、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スウェーデン南部、スロベニア、アルバニア、クロアチアなどでも発生が見られ、また、近年では北海道でも数件の感染被害が報告されています。
ダニ媒介性脳炎って何?
感染経路は?
ダニ媒介性脳炎は、ウイルスをもったマダニに咬まれることによって発症する感染症です。
マダニだけではなく、げっ歯類(ネズミやリスなど)などもウイルスをもっていることがあります。
また、ダニ媒介性脳炎に感染したヤギやヒツジ、牛の未殺菌の生乳を飲んで感染するということも まれにあるそうで、そのような機会がある方は注意が必要です(牛の生乳からの感染は、“例外的”と言えるほど少数だそう)。
人から人への感染はありません。
どれぐらいの割合で感染・発症するの?
オーストリア国内では、全体の約1~3%のマダニが、ダニ媒介性脳炎のウイルスを保有していると言われています。
また、マダニに咬まれ感染したとしても必ず発病する訳ではなく、症状が出るのは その内の約10~30%。
という訳で数的には、100回~300回咬まれて1回発症する…という程度に考えられます。
オーストリアは1981年以来、ダニ媒介性脳炎に対するワクチン接種キャンペーンが毎年行われているため、キャンペーン前に比べ発症数は下がっており、キャンペーン前は年間300~700報告されていた症例が、その後の40年間で、年間40~200ほどにまで減少しています。
(※ オーストリアでは総人口の80%以上が、少なくとも1回のワクチン接種を受けています。)
予防接種を受けていない人の発症率はキャンペーン以前と変わっていないため、オーストリアの全体的な発症率が(マダニの数自体が減った…等々の予防接種以外の理由で)下がった…という訳ではありません。
例えば、2010年から2020年にかけての10年間の統計では、1224 の症例と、その内 21 の死亡例が報告されています。
どのような症状が出るの?
感染したマダニに咬まれてから平均して1週間ほどで(潜伏期間は 3日~28日 と幅が広いです)、発熱・頭痛・嘔吐・めまいといった、インフルエンザのような症状が現れます。
この症状が いわゆる<第1段階>で2~4日ほど続いた後、1週間ほどで快方に向かいます。
多くの人がこの段階で快復しますが、10人に1人ほどの割合で<第2段階>へと移行する場合があります。
ほぼ無症状の状態が数日間(3・4日~1週間)続いた後、頭痛、悪心、痙攣、めまい、知覚異常、集中力低下、言語障害、歩行障害などの髄膜脳炎に伴う神経系の諸症状が現れ、数週間から数か月間 続くことがあります。
髄膜脳炎を発症した人の内 3分の1で、四肢や顔面の麻痺、難聴、てんかんなどの神経系の後遺症が残り、重篤な場合は死に至ると言われています(神経系の症状を発症した人の内 1~2%)。
ワクチン接種による予防
ダニ媒介性脳炎の治療は対症療法しかなく(ウイルス疾患なため抗生物質が効きません)、唯一の有効な予防策として、オーストリアではワクチン接種が推奨されています。
上にも書きましたが、オーストリアでは総人口の80%以上が、少なくとも1回のワクチン接種を受けていると言われていますが、実際には<1回>では不十分。
基本的には3回の予防接種 + 定期的なブースター接種<ワクチンの効果を高め、持続させるための追加接種>によって免疫を保ちます。
基本的なワクチン接種の回数
- 1回目のワクチン接種
マダニが活動を活発化させる前の、まだ寒い時期に行うのが理想です。 - 2回目のワクチン接種 – 1回目のワクチン接種の1~3ヶ月後。
上記と同じく、やはりまだ寒い時期に打つのが理想です。 - 3 回目のワクチン接種
2 回目のワクチン接種の 5~12 か月後、または9~12 か月後。
3回目ワクチンの接種時期は 接種したワクチンの種類によって異なりますが、一般的には<1年後>と言われます。 - 1回目のブースター接種(追加接種)
3回目のワクチン接種から3年後。 - 2回目以降のブースター接種(追加接種)
– 5年ごと(60歳未満)
– 3年ごと(60歳以上)
60歳以上でブースター接種の間隔が短くなるのは、加齢に伴う免疫システムの低下を補うためだそうです。
ワクチンの予防効果が出るのは、<2回目のワクチン接種>の約2週間後からで、ワクチン接種による予防効果率は ほぼ100%と言われています。
ワクチン接種はどこで受けられるの?
ワクチン接種は、
① 薬局(Apotheke)で自分でワクチンを購入、一般医(家庭医)や小児科医に持参し、打ってもらう。
という方法が一般的です。
小児科医の場合は通常 予約が必要ですが、一般医(家庭医)で予約が必要かどうかは各一般医(家庭医)にお尋ねください。
“以前 接種したことがあるが、Impfpass(予防接種の国際証明書)もなくし、追加接種の時期がわからない”という方も、一般医(家庭医)にご相談ください。
“ずいぶん前に接種した”という方は、まず追加接種を1回受け、1ヶ月後に抗体の有無をチェック(血液検査)、その際に抗体が確認されれば問題なし、次の追加接種は5年後(60歳以上の方は3年後)…というような流れになるかと思います。
② 各連邦州の予防接種センター・保健当局・地区当局 に予約を入れて打ってもらう。
という方法もウィーン州にはあります。
連邦各州の予防接種センター・保健当局・地区当局での予防接種が可能かどうかは、上記リンクに連絡先が記載してありますので、各局にお問い合わせください。
ウィーン市の予防接種センター
Impfservice Town Town
住所:
Town Town, Thomas-Klestil-Platz 8/2, 1030 Wien
予約:
– 電話による予約<1450>
– オンラインでの予約<Impfservice Wien>
営業時間:
月曜~金曜: 8:00~15:00
木曜のみ上記時間に加え、15:00~17:00も営業(学校の休み期間を除く)
予防接種カードは?
予防接種を受けるには、「Impfpass」または「Impfausweis」と呼ばれる予防接種カードが必要です。
過去のワクチン接種記録、また、今後受けるべきワクチンの情報などが記載されており、国を超えて通用する予防接種の国際証明書となっています。
ワクチン接種の際に「Impfpassは?」と聞かれますので、持っていない方はその場で作ってもらいましょう。薬局・医師・保健局などですぐに作ってもらえます。
自分の日本の母子手帳にある予防接種の記録(種類と時期)をドイツ語に訳し、お医者さんなどで書き加えてもらえば、日本で受けたワクチン接種の記録も一緒に載せることができ、何かと便利です。
子供もワクチン接種を受けられるの?
1歳の誕生日以降、ワクチン接種可能とされており、通常、1歳~2歳の間に1回目のワクチン接種を受けます。
定期予防接種で小児科へ通う中で、小児科医にダニ媒介性脳炎の予防接種も勧められますので、ちょうどよさそうな接種時期を小児科医とご相談ください。
ワクチン接種にはいくらかかるの?
オーストリアでワクチンを接種する場合、各州政府、各保険機関、オーストリア医師会、オーストリア薬剤師会などにより<予防接種キャンペーン>が実施されていることも多く、一概にいくらと決まっている訳ではありませんが、だいたい、
ワクチン代: 30~50ユーロ
医師による接種代: 10~20ユーロ
といったところです。
各地域・各団体の詳細なキャンペーン情報は、「FSME Impfaktion Wien 2023」などのキーワードで検索すると見つかるかと思います。“Wien”のところは、お住まいの州名を入れてみてください。
一応、社会・保健・介護・消費者保護省 のサイトでも、<予防接種キャンペーンの案内>として、各団体へのリンクが紹介されていますが、こちらからはキャンペーン情報を見つけることができず(2023年現在)、Google検索の方が却って見つけやすかったです。
各団体のキャンペーンはだいたい、1・2月頃~8月末ぐらいにかけて行われていることが多い印象がありますので、ワクチンの購入はその時期に行うのがよさそうです。
まぁちょうど、「そろそろダニの予防接種、受けとくかな~」と思い始めるような時期が、何らかの団体のキャンペーン期間と重なるかと思います。
この時期、薬局(Apotheke)にワクチンを買いに行くと、「8月末まではワクチンが安く買えるよ」、「2回目のワクチン接種時はワクチンが高くなってるから、今買っておいて、2回目接種時まで冷蔵庫で保管しておけばいいよ」などと教えてくれたりしますので、参考にしてみてください。
ワクチンは冷蔵庫で保管することができます(2°C~8°C)。
保管する場合は未開封の状態で、また、ワクチンが凍結しないよう注意しましょう。
例えば2023年の場合、ÖGK<オーストリア健康保険基金>加入者は 4.50ユーロ の補助が受けられます。
通常は、ワクチン購入の際に薬局で割り引いてもらえますが(自分でワクチンを購入する必要がなかった場合は、医師の接種代から割引き)、もし何らかの理由で割り引いてもらえなかった場合、ÖGK に自分で申請することもできます。
申請の詳細については、こちらの ÖGKウェブサイト(ダニの予防接種) でご確認ください。
ワクチン接種に関する Q&A
注射はどこに打つの? 副作用はあるの? 接種後の注意点は? 妊娠中・授乳中の接種は? アレルギーをもっている場合は? 等々、
様々な疑問点については、かかりつけのお医者さんに相談されるのが一番ですが、ダニ媒介性脳炎 予防接種についての種々様々な質問に、お医者さんが回答しているサイトもありますので、下にご紹介しておきます。
自分でもできるマダニ対策
いくら予防接種で対策をしていたとしても、マダニに咬まれるのは気持ちのいいものではありません。
原っぱで遊ぶ、草むらに入る、庭仕事をする、近所の森にベリー摘みに行く、ハイキングや登山・キャンプなど野外活動をする場合等々、自然と接する機会のある時に できるだけマダニとの接触を避けられるよう、自分でできる対策について いくつかご紹介します。
服装に気をつける
- 長袖・長ズボン・靴下・足全体を覆う靴(サンダルなどではなく)・帽子を着用しましょう。
- 特に自然の多い場所では、手袋、タオルを首に巻くなどして、できるだけ肌の露出を控えましょう。
- ズボンの裾は靴下や長靴の中に、シャツの裾はズボンに入れ、マダニが服の中に入るのを防ぎましょう。
- 服についたマダニがすぐに確認できるよう、明るい色 や マダニが同化しない柄(理想は無地) を選びましょう。
- 上着にマダニがついていることもあるので、マダニを家の中に持ち込まないよう、注意しながら脱ぎましょう。
服の上のマダニは、粘着テープを使って取り除くと簡単です。
野外活動後は全身をくまなくチェック!
- 野外活動から戻った後はシャワーを浴び(咬みついた後のマダニはシャワーでは取れませんが)、マダニが咬みついていないか徹底的にくまなくチェックしましょう。
- マダニがまだ幼ダニで、なおかつ咬みついたばかりだったりすると、ホクロやゴミなどと見間違えるほど小さいですので、よくチェックします。
- マダニが好むのは、柔らかく暖かく、少し湿り気のある皮膚。
特に、膝の裏、内もも、鼠径部(足の付け根)、性器付近、臀部、おへその辺り、わきの下、腕の下側、ひじの内側、肩、首、髪の生え際、頭皮、耳および耳の後ろ などに咬みついている場合が多いそうです(なんだかもう、全身ですね…)。 - マダニは主に、高さ150センチまでの草むらにいるとされているため、子供の場合は特に、首、髪の生え際、頭皮を咬まれている場合も多いです。頭と首もあわせて、くまなくチェックしましょう。
森や公園を訪れた後は、子供を着替えさせるのもいいですね。
草むらには入らない
- マダニが潜んでいそうな草むらには無用に入らず、森林・公園などでは、決められた遊歩道・散歩道・ハイキングコースを歩きましょう。
- 小道よりは少し広めの道を選び、できるだけ道の真ん中寄りを歩きましょう。
- 森林を伐採した場所、干し草の山などもマダニが潜んでいる可能性が高いので、無用に近づかないようにしましょう。
マダニに効果のある虫除けスプレーを使う
虫除けスプレーは、自然の多い場所で野外活動をする時などはもちろん、
それ以外でも、ちょっと近所の公園へ、ちょっと庭仕事でも、なんていう時にも 手軽に使え便利です。
<ディート(DEET)>や<イカリジン>という成分が入った虫除けスプレーが特に効果が高く、マダニに対する虫除け剤としても有名です。
ちなみに、日焼け止めと虫除けスプレーを同時に使いたい場合は、日焼け止めを先に、虫除けスプレーを後に使います。
下でご紹介するディートは、日焼け止めの効果を3分の1に低下させてしまうという報告(test.de)もありますので、強い日差しの下で長時間過ごす場合には注意が必要です。
ディート(DEET) – ドイツ語: DEET, Diethyltoluamid
ディート(DEET)は1950年前後にアメリカで開発・使用が開始された虫除け剤。
歴史もあり、日本では2015年まで、ディートのみが虫除け剤として承認されていましたが、皮膚への刺激、神経毒性の可能性なども指摘されており、特に子供への使用には注意が必要です。
※ ディートは、ドイツ語の成分表には<Diethyltoluamid>と記載されていることもあります。
日本の厚生労働省では以下のように通知しています。
ディート12%以下の商品
・6か月未満の乳児には使用できません
・6か月以上2歳未満は、1日1回まで
・2歳以上12歳未満は、1日1~3回まで
ディート30%の商品
・12歳未満には使用できません
イカリジン – ドイツ語: Icaridin
イカリジン は、ドイツのバイエル社が1980年代に開発した虫除け剤で、1998年より市販されています(日本では2015年から)。
虫除け剤としてはディートと同等の効果があり、なおかつ、ディートにないメリットも多く、子供さんのいるご家庭でも使いやすいです。
イカリジン: ディートと比べた場合のメリット
- 子供への使用制限・回数制限がない
(※ ドイツの医師は、2歳未満の子供に使用するための具体的かつ十分なデータがないとして、2歳に満たない子供への使用を推奨していません。) - 妊娠中・授乳中の女性も使用できる
- ディート特有の嫌な臭いがない。
- 化学繊維やプラスチックを傷めにくく、時計やメガネ、アクセサリーや衣類の上から使用してもほとんど影響がない。
(※ ディートは、プラスチック製品にかかると変色・変質させる可能性があると言われています。)
イカリジン: ディートと比べた場合のデメリット
対象となる虫の種類が、ディートより少なくなります。
対象は蚊成虫、ブヨ、アブ、マダニに限定されますが、ディートの場合は これらに加え、ノミ・イエダニ・サシバエ・トコジラミ(ナンキンムシ)・ツツガムシ等にも効果があるとされています。
ディートやイカリジンの濃度(%)は、“強さ”ではなく“持続時間”を示しています。
配合されている濃度の違いによって、効果の持続時間が大きく変わってきますので、虫よけ剤についている説明書をよく読み、何時間ごとの塗り直しが必要か確認しましょう。
効果の持続時間については、研究結果によって諸説ありますが、以下に一例を載せておきます。
ディート: 20%で約1~3時間、30%で約6時間、50%で約12時間
イカリジン: 10%で4時間(蚊やアブに対して)& 2時間(マダニに対して)、20%で8時間(蚊やアブに対して)& 4時間(マダニに対して)
オススメの虫除けスプレー
ドイツの消費者団体<Stiftung Warentest>で実施された虫除けスプレーテストの結果を参考に(test.de)、オススメスプレーをご紹介します。
マダニ対策として最も効果が高かったとされたのが、ANTI BRUMM社から発売されている「ANTI BRUMM forte」という製品。
有効成分はディートです。
こちらの ANTI BRUMM社 からは、上記の赤色スプレー(蚊やマダニなど、虫全般対策)の他にも、黄色スプレー(マダニに特化)、黄緑スプレー(天然成分)など、数種が発売されていますが、この 赤色 がとにかく評判がいいです。
ANTI BRUMM社 の製品は、他社の虫除けスプレーに比べると高額ですが(150ml で 20ユーロ前後)、“効果は絶対で、値段だけの価値はある!”と消費者の信頼を得ています。
有効成分としてイカリジンを選びたい方は、下の黄色スプレー(マダニに特化)「ANTI BRUMM Zecken Stopp」も赤色に次いで効果・人気共に高いですので オススメです。
ANTI BRUMM社の製品は 薬局(Apotheke)で購入することができますので、旅行中でも簡単に手に入ります。
ANTI BRUMM社と同様に効果・人気共に高いのが、Autan社 から発売されている「Autan Multi Insect」。
有効成分はイカリジンで、値段は上記ANTI BRUMM社よりも安いです(100ml で 8ユーロ前後)。
ご近所のドラッグストア(dm や Bipa など)でも購入できますので、より手軽に手に入るかもしれません。
ANTI BRUMM社と同様、マダニに特化したスプレーも発売されていますが、Autan社の公式ウェブサイトによると、有効成分はどちらもイカリジン20%。
成分的に何が違うのか若干不明ですが、マダニには絶対的な効果がありそうですので、“とにかくマダニを防ぎたい!”という方にオススメです。
ディートよりも刺激が少ないと言われるイカリジンですが、ドイツでは 2歳未満の赤ちゃんへの使用は推奨されていません。
ただ、2歳未満であってもイカリジンによる虫除けを使用したいという場合、下の製品「Doctan Kinder」は6ヶ月以上~2歳未満の乳幼児に使用可能として医師サイトなどでも紹介されています。
詳細については購入の際に、薬局でお尋ねください。
虫除けスプレーを子供に使用する際の注意点
- 子供に自分で塗らせず、大人が塗ってあげます。
- スプレータイプの場合は直接吹きかけず、大人の手にとってから塗ります。
- 乳幼児の場合は、顔や口に虫除け剤がついたり、舐めてしまわないように、手指には塗らないようにします。
- 目や粘膜、肌の敏感な部分、ケガのある部位には、虫除け剤がつかないように注意します。
- 子供には特に、天然成分の方が安心という方もいらっしゃるかと思います。
天然成分として有効とされているのがレモンユーカリ油(ドイツ語: Eukalyptus citriodora Öl)ですが、一般的には3歳未満の乳幼児には使用しないこととされているため、注意が必要です。また、ディート・イカリジンと比べると、虫除け効果としても限定的だそうです。
上記 ANTI BRUMM社の製品にも、レモンユーカリ油を用いた天然成分の虫除け剤がありますが、こちらは控えめに使えば1歳以上の幼児にも使用可となっています。
マダニに咬まれた時は?
マダニに咬まれたと気づいたら、できるだけ早急にピンセットで引き抜きます。
マダニは吸血を始めると口器からセメント様のいわゆる“接着剤”を分泌、一日もすると口器の周りはしっかりと固められ、引っ張っても取れなくなってしまうため、できるだけ早い対処が重要になってきます。
戸外で活動をしている時は、2時間に1回はマダニに咬まれていないかチェックするのが理想だそうです。
皮膚に食い込んでいる口器と胴体がちぎれてしまわないよう、慎重に引き抜く必要がありますが、先が平らになっているピンセットなど、マダニ専用ピンセットでない場合、マダニを潰してしまったり、口器と胴体がちぎれ 口器だけ皮膚の中に残ってしまう危険もあります。
マダニの体がピンセットで潰されたり、また、余計なストレスをかけることで、マダニの体液が人の血液の方に逆流、マダニのもつダニ媒介性脳炎のウイルスだけではなく、ライム病(後述)を引き起こす細菌まで人の体内に流れ込む恐れもありますので、マダニの除去にはできるだけ、下にご紹介するようなマダニ専用のピンセット「Zeckenzange」を使用するようにしましょう。
マダニはライム病も媒介します
ライム病も、マダニに咬まれることにより感染する感染症です。
ライム病はウイルスではなく細菌による感染症で、抗生物質での治療が可能、そのため治療法のないダニ媒介性脳炎ほど恐れられてはいませんが、オーストリアでの感染数は毎年約70000件。
オーストリア全体では約30%のマダニが、ライム病を引き起こす細菌<ボレリア>を保有していると言われ、ダニ媒介性脳炎よりずっと感染リスクの高い病気です。
ライム病は免疫を作らないため、複数回感染する可能性もあり、また予防ワクチンもありません(人から人への感染はありません)。
ボレリア菌はマダニの腸内に生息しており、マダニに咬まれたとしても人の体に侵入するには時間がかかります。
そのため、マダニ除去が早ければ早いほど、感染のリスクを抑えることができます(24時間以内に除去すると感染率が低いと言われています)。
マダニに咬まれてから数日~数週間で発症し、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、全身倦怠感といったインフルエンザに似た症状が現れます。
特に特徴的なのが、咬まれた部位が赤く変化する「遊走性紅斑」。
咬まれた部位付近の皮膚が赤くなり、次第に周辺に拡大、5~20cmほどの大きな赤みになります。
ただ、遊走性紅斑は必ず現れる訳ではなく、発症数の70~80%ほどと言われています。
ライム病を放置すると神経麻痺などの重篤な後遺症を生じかねないため、安易な自己判断はせず、マダニに咬まれた後に体調が悪くなったという場合は、すぐにお医者さんに行き、また、誤診を防ぐため、マダニに咬まれたことを伝えましょう。
可能であれば、皮膚から抜き取ったマダニを持参するのもよいそうです。
参考サイト: gesundheit.gv.at
マダニを引き抜く際の注意点
- できるだけ皮膚に近い場所でマダニをつかみ、慎重に、まっすぐ上方に引き抜きます。
以前はよく、“右に回しながら”とか、“いや、左に回しながら”などと言われていましたが、今は一様に<まっすぐ引き抜いて!>と言われています。 - ピンセットでマダニをつぶしてしまわないように注意します(マダニの体液の逆流を防ぐため)。
- 咬まれた部分をよく洗い、消毒します。
- 引き抜くのが困難であったり、敏感な部分(性器付近や耳の中、まぶたなど)の場合は、自分で引き抜かず、医者に行って処置してもらいましょう。
- ライターの炎であぶる、オイルやワセリンを塗ってマダニを窒息させる、といった いわゆる“民間療法”は効果がないばかりか、却って状態を悪化させる可能性があるため、絶対にしないようにと言われています。
- 抜き取ったマダニは指ではつぶさず、密閉した袋や容器に入れて捨てたり、粘着テープなどで挟んで捨てたりするのがよいそうです。
- 口器と胴体がちぎれ、マダニの口器等が皮膚内に残ってしまったとしても慌てずに、ピンセット等で取り出せそうか試してみます。
取り出せなければ医者に行って取ってもらう、あるいは、数日で自然に脱落するのを待つこともできます。
マダニの一部が体内に残ってしまった場合、軽度の感染症を引き起こす可能性もありますが、通常は無害だそうです。
参考サイト: gesundheit.gv.at
※ 上記 オーストリア公衆衛生ポータルサイト では、マダニの除去方法がわかりやすく説明されていますので(翻訳機能で意味もわかります)、ぜひご一読ください。
ダニの引き抜き方について、下の動画も参考になります。
マダニ除去用のピンセットやティックカード(マダニカード)などの器具は、薬局(Apotheke)やドラッグストア(dm や Bipa など)で購入できます。
よくあるタイプのマダニ専用ピンセット
マダニのサイズに合わせ、3種類が1セットになったピンセット
ピンセットタイプではなく、ワイヤー状の先端にマダニを引っ掛けて引き抜くタイプ
マダニのサイズに関係なく、胴体をちぎらずに引き抜くことができると評判がいいです。
ピンセットのように毛を挟んでしまう心配も少なく、犬や猫などの動物を飼っている方にもオススメです。
(※ 犬や猫も、人と同じようにマダニに咬まれます!)
カード状のティックカード(マダニカード)
カード状になったタイプで、マダニを潰す心配がないということで人気です。こちらも上の<引き抜くタイプ>と同様、動物を飼っている方にもオススメ。
ちなみに、私が常に持ち歩いているマダニ対策グッズは、上の写真にも載せた3点セット。
ANTI BRUMM社の天然成分の虫除けスプレー(黄緑の容器)、よくあるタイプのマダニ専用ピンセット、そしてワイヤー状のマダニ引き抜き器(?)です。そろそろ子供も大きくなってきたので、今年はイカリジン入り虫除けスプレーに替えようかなと検討しています。
こんな場合は医者へ
オーストリアではマダニに咬まれる機会も多く、咬まれたら即 医者へ…とは言われていませんが、次のような場合はお医者さんに行き、適切な処置をしてもらいましょう。
- 引き抜くのが困難であったり、敏感な部分(性器付近や耳、まぶたなど)にマダニが咬みついている場合。
- 皮膚上にマダニを見つけたものの、いつ咬まれたものかわからず、マダニ自体も血を吸い取りずいぶん大きくなっているような場合。
こんな場合は既に口器が皮膚にしっかりと接着し、通常のやり方で引き抜くのは難しくなっています。 - 咬まれた部位が ひどく炎症を起こしている場合。
- 咬まれた部位の周辺に、赤いリング状の皮疹が生じている場合(ライム病を疑います)。
- マダニに咬まれてから6週間以内に、発熱・頭痛・体の痛みといった、インフルエンザに似た症状が現れた場合。
誤診を防ぐため、マダニに咬まれたことを伝えます。
おわりに
ダニ媒介性脳炎は感染率・致死率共に決して高い訳ではなく、必要以上に恐れる必要はないですが、マダニに咬まれるのは気分もよくないですよね。
マダニが潜んでいそうな季節・場所を知り、服装に気をつけ、虫除けスプレーなども上手に利用しながら、マダニとの接触ををできるだけ避けられるように気をつけていきたいです。
旅行など、短期滞在中に自然に触れる機会のある方は、虫除けスプレーが有効ですし、ある程度長く滞在される方は予防接種が簡単に受けられますので検討してみてください。
なお、マダニが媒介する感染症について、厚生労働省のサイトで とてもわかりやすくまとめられています。興味のある方は 参考にしてみてください。
厚生労働省: ダニ媒介感染症