日本国籍保有者は、観光・知人訪問・出張(商談)など、就労以外の目的でオーストリアを訪れ、その滞在が6ヶ月を超えない場合、ビザを申請する必要はありません。
90日ではなく6ヶ月滞在可というのが、他の シェンゲン協定加盟国 とオーストリアとの大きな違いですね。
この“日本人はオーストリアに、ビザなしで6ヶ月滞在可”をめぐる話については、下の関連記事をご参照ください。
ビザ(Visum)と在留許可(Aufenthaltstitel)の違い
ビザは“査証”と書いたりもしますが、○○大使館が発行する いわゆる推薦状。当該○○国へ入国する際に必要となる書類です。
大使館の審査の結果、「この日本人が○○国に入国するのに支障はないと判断された」ということを、入国審査官に示すための推薦状 あるいは 紹介状といった扱いになります。
一方、在留許可は、外国人が当該○○国に合法的に滞在するための許可・資格です。
テレビや新聞などでも、この「ビザ(査証)」と「在留許可」をひとまとめにして「ビザ」と呼ぶことが少なくないため、いざ自分が当事者となり申請手続きをするとなった場合、混乱してしまいますが、ビザ(査証)=入国用、在留許可=滞在用 と覚えておくと 混乱が防げますね。
ただ、オーストリアの Dビザ は、“滞在が91日から6ヶ月まで”の人に発行されますので、“入国用”というには若干無理がありますよね。
そんなところもビザと在留許可の混同を招く一因かと思いますが、Dビザは入国用・一時滞在用、在留許可は長期滞在用 と考えておくとよいかと思います。
当記事で書いているのは、ビザ(査証)についてではなく、在留許可についてです。
滞在期間が6ヶ月を超える場合、あるいは6ヶ月未満であっても、オーストリアで報酬を得て就労する場合は、ドイツ語で Aufenthaltstitel と呼ばれる、オーストリア政府発行の在留許可を申請する必要があります。
この Aufenthaltstitel と呼ばれる在留許可ですが、大きく2つのグループに大別されています。
1つ目が、Aufenthaltsbewilligung<滞在許可>と呼ばれるもので、“将来的に帰国することを前提に”発行される許可証、
もう一つが、“将来的に、オーストリアに永住することを前提に”発行される許可証 で、名称に Niederlassungsbewilligung<定住許可> と付くもの と 付かないもの とがあります。
仕事、研究、勉強など、様々な目的でオーストリアに住むと決まった場合、あるいは、住みたい国の選択肢としてオーストリアが浮かんだ場合、まずどの在留許可(Aufenthaltstitel)を申請すべきなのか、いや、もっと話を戻して、そもそも自分が申請できる在留許可があるのか、とても気になるところだと思います。
在留許可については、その枠組みや内容、申請方法など、特にここ数年の間に激しく変わりましたので、今書こうとしている内容も、明日にはもう、情報が古く誤ったものになっているという可能性もあります。
私が育児休暇を取る前、2016年頃までに会社で書き溜めていた在留許可をめぐる様々な書類なども、今となっては「あ、これ全部書き直し」となっています。
ただ、激しく変わると言っても、全規定が根本からすべて書き換えられ 原型をまったくとどめていないという訳ではないですし、オーストリアの在留許可について調べる最初のとっかかりにはなるかと思いますので、とりあえず 現在(2019年9月)のオーストリアの在留許可<Aufenthaltstitel>の種類 について書いておこうと思います。
なお、在留許可について、その申請方法なども含めて詳細に書き出すと、それこそ本1冊書けちゃうんじゃ…というぐらい膨大な量になってしまいますので、この記事ではとりあえず、“在留許可の種類”に限定して、簡略版で書いていきますね。
なお、本記事を書くにあたり、正確な情報、最新の情報をわかりやすくお伝えできるよう細心の注意を払っていますが、“自分のケースとは違った”、“役所の担当者には違うことを言われた”ということも十分起こり得ます。
“在留許可”は、慎重な配慮を必要とするテーマでもあり、同じ担当者でも日によって違うことを言う、あるいは、ほとんど自分と条件の変わらないはずの知人がまったく別の申請書類を要求された、などということも頻繁に起こり得ます。
当記事は、オーストリアの在留許可について調べる“とっかかり”として参考程度にお読みいただき、ご利用は自己責任でお願いいたします。
当サイトの情報を利用されたことによる、問題・損失・損害については、一切の責任を負いかねますことをご了承ください。
滞在許可 – Aufenthaltsbewilligungen
上にも書きましたが、“将来的に帰国することを前提に”発行される許可証です。
将来的には自分の母国へ戻ったり、あるいはオーストリア以外の国へ移住するという前提の方が申請します。
企業内転勤異動 – Unternehmensintern transferierte Arbeitnehmer (“ICT”)
世界各地に拠点をもつ多国籍企業が、オーストリア国内の現地法人・支店・駐在員事務所といった拠点に社員を派遣する場合に申請する滞在許可です。
2017年9月まで発給されていた “Rotationsarbeitskraft(ローテーション労働力)” と呼ばれる滞在許可がなくなり、こちらの企業内転勤異動<ICT>に移行された形になっています。
ICT は、オーストリア独自の滞在許可ではなく、EUのいわゆる「ICT指令」と呼ばれる法令によって定められた在留許可ですので、オーストリア国外のEU加盟国にも ICT と呼ばれる滞在許可があります。
ただ、各EU加盟国の国内法によって定められた申請方法・申請条件などには細かな違いがありますので、EU全域で統一的な運用規定となっている訳ではない、というところに注意が必要です。
ICT の対象となる転勤者は、
- 経営管理職(Führungskraft、英:manager)
- 専門家(Spezialistin/Spezialist、英:specialist)
- 研修生(Trainee、英:trainee)
です。
経営管理職・専門家に関しては、企業内転勤異動の直前の少なくとも9ヶ月以上の連続した期間、研修生に関しては6ヶ月以上の連続した期間、転勤先の企業が属する多国籍企業グループに勤務している必要があります。
また、受け入れ企業で求められる高度な職業的資格・経験、特殊技術等を有していること、あるいは研修生の場合、大学卒業資格を有していることなど、申請に必要となる条件が細かく定められていますので、適宜 必要書類を準備していくことになります。
経営管理職・専門家の場合、最長滞在期間は 3年、研修生の場合は 1年 となっています。
この期間には、オーストリア以外のEU加盟国で ICT を取得して滞在した期間も含まれます。
家族の帯同は可能で、帯同家族は滞在許可<帯同家族 – Familiengemeinschaft>を申請することができます。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
モバイル 企業内転勤異動 – Mobile unternehmensintern transferierte Arbeitnehmer (“mobile ICT”)
既にオーストリア以外のEU加盟国で、上記の 企業内転勤異動(ICT)滞在許可 を取得済み(かつ 有効期限内)、という方を対象とした滞在許可です。
オーストリアでの就労が90日を超える場合に申請します。
オーストリアで就労を始める遅くとも20日前には申請をする必要があります。
原則、当初の ICT滞在許可(オーストリア国外で取得した ICT滞在許可 ですね)の期限を超えて、オーストリアに滞在することはできません。
家族の帯同は可能で、帯同家族は滞在許可<帯同家族 – Familiengemeinschaft>を申請することができます。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
企業派遣 – Betriebsentsandte
これは、上記の“企業内転勤異動”となんとなく似ているようで、内容はずいぶん違います。
オーストリアに、現地事務所や現地支社などといった現地拠点を持たない外国企業が、オーストリア国内の企業との契約によって社員を派遣する、といった場合に申請する滞在許可です。
申請には、AMS(直訳すると“労働市場サービス”ですが、日本の“公共職業安定所/ハローワーク”に当たる組織です)が発給する<Sicherungsbescheinigung> や <Beschäftigungsbewilligung>といった書類が必要になったりします。いわゆる、“労働許可証”ですね。
家族の帯同は不可。帯同家族は、在留許可の申請をすることができません。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
自営業者 – Selbständige
読んで字のごとく、自営業の方ですね。
滞在許可を申請するためには、企業や団体など、オーストリア国内の依頼主から業務(6ヶ月以上の継続した作業期間を必要とするもの)を請け負っていることを証明できる契約書などを提出する必要があります。
上記“企業派遣”と同じく、こちらも、家族の帯同は不可。帯同家族は、在留許可の申請をすることができません。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
研究者-モビリティー – Forscher-Mobilität
次の記事<オーストリアであなたが申請する在留許可はどれ? ② – 定住許可全6種 と その他の在留許可全5種 について説明します> 内で記載している<定住許可 – 研究者>とは違い、既にオーストリア以外のEU加盟国で<研究者>の在留許可を取得している、という方を対象としています。他のEU加盟国で発行された在留許可は、有効期限内である必要があります。
大学の博士課程、あるいはそれと同等の高等教育を修了し(オーストリア国内の大学博士課程に入学できる学歴、というのが基準になります)、オーストリアの公認研究機関と採用契約が結ばれていることが条件となります。
家族の帯同は可能で、帯同家族は滞在許可<帯同家族 – Familiengemeinschaft>を申請することができます。
滞在許可を取得できた後は1年ごとの更新となり、オーストリア以外のEU加盟国で、研究者在留許可で滞在した期間と合わせ、最長2年まで延長することができます。
特別被用者 – Sonderfälle unselbständiger Erwerbstätigkeit
被用者とは、なかなか聞きなれない言葉ですが、労働契約に基づき、雇い主から賃金を受け取って労働に従事する人のことを指します。
ここに“特別”と付いているのは、その被用者の内、外国人雇用法の対象外となる仕事に付いている人を指すためです。
外国人雇用法の対象外となる仕事の例としては、船員、EUの教育・研究プログラム参加者、交換教諭・語学学校の教師、交換留学生、奨学生、オーペア*などが挙げられます。
場合によってはAMS(労働市場サービス)の<Anzeigebestätigung>といった書類の提出を求められます。
家族の帯同は可能で、帯同家族は滞在許可<帯同家族 – Familiengemeinschaft>を申請することができます。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
* “オーペア”はあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、外国にホームステイして現地の子供の保育や家事をしながら、現地語や文化を学ぶといった制度で、ホストファミリーから報酬をもらうことも可能です。対象年齢は18歳~28歳。
特別被用者の枠組みに入っているオーペアですが、このオーペアのみ家族の帯同は不可、最長滞在期間は1年のみ(更新不可)と、他の特別被用者とは若干違った規定になっています。
小学生、中学生、高校生、専門学校生 – Schüler
主に、小学生、中学生、高校生、専門学校生などを対象とする生徒用の滞在許可です。
申請者が未成年(18歳未満)の場合は、オーストリアにおいて世話をする人(いわゆる後見人ですね)の証明書を提出する必要があります。
家族の帯同は不可。帯同家族は、在留許可の申請をすることができません。
小学生・中学生といった、まだ小さなお子様をオーストリアに留学させる場合であっても、この“生徒用滞在許可”ではご両親の滞在許可が下りませんので、ここは注意が必要なところです。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
大学生 – Studenten
通常の国立大学の学生、公認私立大学の学生が申請する滞在許可ですが、聴講生の場合は様々な条件によって制限されています。
大学の正規学生の場合、滞在許可の発給を拒否されるというケースはほとんど聞きませんが(大学にもよりますが)、滞在中の住居費・生活費をめぐる審査が大変厳しくなっています。
家族の帯同は可能で、帯同家族は滞在許可<帯同家族 – Familiengemeinschaft>を申請することができます。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
社会奉仕者 – Sozialdienstleistende
個人的な報酬を得ることなく、社会奉仕活動目的で在留する方を対象としている滞在許可です。
特定の政治思想を持たない、公共の利益となる活動を行う組織・団体に所属している前提で、当該組織・団体によって在留中の生活費・住居費等が保証されている必要があります。
家族の帯同は不可。帯同家族は、在留許可の申請をすることができません。
また、上記 1年ごとの更新となる滞在許可とは違い、更新のできない滞在許可です。そのため、滞在許可取得後の最長滞在期間は1年となります。
ボランティア活動従事者 – Freiwillige
文字通り、ボランティア活動に従事する人を対象とした滞在許可です。
ボランティア活動の内容・種類については、法令によって規定されています。
ボランティア受け入れ先機関との、活動に関する合意書等を提出する必要があります。
家族の帯同は不可。帯同家族は、在留許可の申請をすることができません。
滞在許可を取得できた後は、1年ごとの更新となります。
帯同家族 – Familiengemeinschaft
上に記載した 10 の滞在許可の内、下記の滞在許可申請者の帯同家族(配偶者・法的パートナー・未成年<18歳未満>の子供)が申請するための滞在許可です。
- 企業内転勤異動<ICT>
- モバイル企業内転勤異動<Mobile ICT>
- 研究者-モビリティー
- 特別被用者 *
- 大学生
* 特別被用者の内、“オーペア”として滞在許可を申請する人の家族は、この帯同家族滞在許可を申請することができません。つまり、家族の帯同不可、ということですね。
おわりに
この記事では、Aufenthaltsbewilligung<滞在許可>(“将来的に帰国することを前提に”発行される許可証)全11種類のみ説明しました。
長くなってきましたので、残りの在留許可、つまり “将来的に、オーストリアに永住することを前提に”発行される許可証(名称に、Niederlassungsbewilligung<定住許可> が付くもの と 付かないもの があります)については、次回の記事<オーストリアであなたが申請する在留許可はどれ? ② – 定住許可全6種 と その他の在留許可全5種 について説明します>に書いていきたいと思います。在留許可を申請する際のちょっとした注意事項なども書き添えますので、次記事もどうぞご一読ください!
とにかく長いですが、次、頑張っていきましょう!